仲良しクラブ型コミュニティが陥る罠
仲良しクラブ型のコミュニティには、明確なサインがあります。集まるたびに同じメンバーが同じような話題で盛り上がり、誰も異議を唱えず、新しい視点や挑戦的な問いが出てくることがない——こうした状態が続いているとしたら、そのコミュニティはすでに「居心地のよい閉鎖空間」になっている可能性が高いです。
仲良しクラブ型のコミュニティが生まれる背景には、人間の自然な心理があります。人は自分の意見を否定されることを嫌い、自分の考え方を肯定してくれる人と一緒にいたいと感じます。特にHR事業者のように、自分の専門性に自信とプライドを持っている人ほど、自分の実践が批判的に問い直される場を避けようとする傾向があります。その結果、似た考え方の人同士が集まり、互いに承認し合う空間が生まれます。
しかし、互いに承認し合うだけの場では、思考は深まりません。「そうですよね」「私もそう思います」という対話が続く中では、誰も既存の前提を疑わず、新しいアイデアも生まれません。業界の常識が問い直されることもなく、自分の専門性の盲点に気づく機会も訪れません。仲良しクラブは参加者に安心感を与える一方で、専門的な成長の機会を静かに奪い続けます。
価値を生むコミュニティが持つ「健全な緊張感」
価値を生むコミュニティは、居心地が良いだけでなく、適度な緊張感を持っています。ここでいう緊張感とは、相手を攻撃する批判的な雰囲気ではなく、「自分の考えに対して真剣な問いが返ってくる」という専門的な刺激のことです。自分の提案に対して「なぜそう考えるのか」「別の視点からはどう見えるか」という問いが投げかけられることで、思考が深まり、実践の精度が上がります。
この健全な緊張感を生むためには、コミュニティの設計として、異なる専門性や背景を持つメンバーが意図的に混在していることが重要です。採用の専門家だけが集まるコミュニティよりも、採用・育成・組織開発・労務といった異なる専門性を持つ人が混在するコミュニティの方が、多様な視点からの問いが生まれやすくなります。また、経験豊富なベテランと業界に入ったばかりの若手が混在することで、「なぜそれが当たり前なのか」という素朴な問いが既存の常識を揺さぶることもあります。
健全な緊張感は、信頼関係の上に成り立ちます。批判のために批判するのではなく、相手の実践をより良くするために真剣に関わるという姿勢が共有されているからこそ、厳しい問いを受け入れることができます。仲良しクラブでは生まれないこの信頼と緊張感の組み合わせこそが、価値あるコミュニティの本質です。
「同質性の罠」を意識的に乗り越える
コミュニティが仲良しクラブ化する大きな原因の一つは、「同質性の罠」にあります。同じような専門領域、同じような規模の会社、同じような経歴を持つメンバーが集まると、対話はスムーズに進む一方で、多様な視点が失われます。互いの「常識」が一致しているため、疑問が生まれにくく、知識や発想の広がりも限定的になります。
意識的に同質性の罠を乗り越えるためには、コミュニティへの参加者を選定する際に多様性を重視することが必要です。大企業のHR担当者と中小企業向けHR事業者、採用の専門家と組織文化の専門家、東京で活動するプレイヤーと地方を拠点にするプレイヤー——こうした多様なメンバーが同じテーブルにつくことで、普段は気づかなかった視点の違いが浮かび上がり、互いの思考を豊かにします。
また、コミュニティの外部から意図的にゲストや異業種のプレイヤーを招くことも有効です。HR業界の外からの視点は、業界内にいると当たり前に思えていた前提を揺さぶる力を持っています。「他の業界ではこういうアプローチをしている」という情報は、HR事業者のサービス設計や課題解決のアイデアに新鮮な刺激を与えます。同質性に安住せず、意識的に多様性を取り込む設計が、仲良しクラブを超えた価値あるコミュニティを育てます。
まとめ:コミュニティは「成長の場」として設計する
仲良しクラブとして機能するコミュニティには、参加者が安心して集まれるという意味では価値があります。しかし、HR事業者がプロフェッショナルとして成長し、クライアント企業により高い価値を提供するという観点では、仲良しクラブ型のコミュニティは明らかに不十分です。
価値を生むHRコミュニティは、快適な関係性の上に健全な緊張感を加えた場として設計される必要があります。互いに尊重しながらも、思考を挑発し合い、実践を問い直し合う対話が行われる空間——それが、HR事業者の専門性を高め、クライアントへの貢献度を底上げするコミュニティの姿です。
「このコミュニティに参加すると、毎回何か考えさせられる」「昨日まで自明だと思っていたことが問い直される」——そういう感覚を参加者が持てるコミュニティこそが、仲良しクラブを超えた本物のHRコミュニティです。居心地の良さを大切にしながらも、それだけに満足しない設計姿勢が、コミュニティの質を決定的に左右します。